コーヒー1杯の暖かさ

心理学を研究する大学院生が、研究もそこそこちゃんとやりながら、日本の教育に一石を投じます。

セロトニントランスポーター多型(5-HTTLPR)に関連した表情の消失に対する感受性を培養が調節する(Ishii et al., Culture and Brain, 2014)

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みなさんこんにちは!

微かに混じり合う教育と心理学とアートについて考えていますじんぺーです。

今日も論文を読んでいきます。

  

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セロトニントランスポーター多型(5-HTTLPR)に関連した表情の消失に対する感受性を培養が調節する(Ishii et al., Culture and Brain, 2014)

結論から言うと、日本人はs/s遺伝子型の人はs/l遺伝子型やl/l遺伝子型の人に比べて、顔の表情の消失(特に笑顔の消失)を知覚効率よく検出していたが、アメリカ人にはそのような傾向は見られなかった

 

背景

■特定の遺伝子型を持つ人は、他の遺伝子型を持つ人と比較して、文化固有の規範や習慣に強く反応し、文化に依存した行動傾向を示す可能性が高い

■5-HTTPLR

・気分や不安などの認知や感情状態に寄与するセロトニン神経伝達の調節に重要な役割を果たしている

・短い対立遺伝子を持つことは、脳内の5-HTT結合の減少と関連しており(Heinzら2000)、これは感情処理に関連している可能性がある

・5-HTTLPRの短い対立遺伝子の1つまたは2つのコピーを持つ個体が、5-HTTLPRの長い対立遺伝子のホモ接合体を持つ個体よりも、神経症傾向(Costa & McCrae 1997)が高い

・短い対立遺伝子を持つ人は、恐怖に関連した刺激に注意を払い、怒り顔や恐怖顔に反応してより大きな扁桃体活動を示す、無秩序な愛着を持つ、不安な気分を経験する、リスクを取ることを避けるなどの特徴

・s/s遺伝子型を持つ人は、ストレスの多い人生の出来事や厳しい家庭環境を経験した場合に精神疾患(例えば、うつ病)のリスクが高いのに対し、ポジティブで支持的な社会環境を持っている場合には、実際には精神疾患のリスクが低くなる

■文化は少なくとも2つの点で環境とは概念的に異なる

・「文化」を、集団的に共有される規範、価値観、日常的な慣行を含む集合的なレベルの現象としてフレーム化

・文化の違いが各文化集団の文化環境への適応を反映していると仮定すると、このモデルでは、自分の幸福と心理的健康だけでなく、規範的な行動と心理的傾向も検討

■西洋文化では自立した自己観を維持するための方法としてコントロールと効力が強調されるのに対し、東アジア文化では相互依存的な自己観を維持するための方法として調整と連結性が強調されることが多い

・文化によっては、他人の期待を裏切ったり、社会の調和を損ねたりしていることを暗示する非言語的なサインに対して、多かれ少なかれ警戒心を持つ

▶一例としては、笑顔が徐々に消えていくことが挙げられるが、これは期待に反していることを示す動的な手掛かりであるはずである

・欧米人と日本人の表情の消失に対する感受性の文化的差異を調べた結果、日本人は欧米人に比べて笑顔の消失を早く判断

 

方法

■参加者:ヨーロッパ系アメリカ人146名、東アジア系アメリカ人学部生47名、日本人学部生153名

■手続き:対象者の表情が徐々に薄れていく様子を描いたモーフムービーを32回(=4人×2性別×2民族(欧米人と日本人)×2感情(幸福→中立、悲しみ→中立))視聴

・各試行では、まず1回完全な動画を視聴した後、再度動画を視聴した。その後、もう一度動画を見て、キーを押すことで、最初の感情を表現しなくなったと思った時点を示す

 

結果

■5-HTTPLR

・日本人:93 s/s、54 s/l、3 l/l

・東アジア系アメリカ人を含むアメリカ人:50 s/s、81 s/l、57 l/l

・東アジア系アメリカ人(17 s/s、20 s/l、6 l/l)のs対立遺伝子キャリアの頻度は、欧州系アメリカ人(33 s/s、61 s/l、51 l/l)よりも高い

■ANOVA

・予想通り、参加者の文化と表情の間の双方向交互作用は有意(F(1, 325)=4.63、p < 0.05、η2 = 0.01)

・参加者の文化と遺伝子型の間の双方向交互作用も有意(F(1, 325) = 6.43、p < 0.05、η2 = 0.02)

・日本人は、しかめ面(M = 4.38, SD = 0.12)よりも、笑顔(M = 4.29, SD = 0.19)の方が有意に早い(t(325)= 6.91, p < 0.0001, d = 0.77)

・参加者の文化と遺伝子型の間の双方向の相互作用は有意(F(1, 325)=7.46、p < 0.05、η2 = 0.02)▶日本人ではs/s遺伝子型の参加者(M = 4.32、SD = 0.17)はs/lまたはl/l遺伝子型の参加者(M = 4.36、SD = 0.14)よりもオフセットの判定がやや速い(t(325) = 1.69、p = 0.092、d = 0.19)。一方、一方、アメリカ人のs/s遺伝子型(M = 4.35、SD = 0.13)の参加者は、s/lおよびl/l遺伝子型(M = 4.30、SD = 0.20)の参加者よりもオフセットの判定がやや遅い(t(325) = 1.73、p = 0.085、d = 0.19)

 

コメント

笑顔→ニュートラルの文化差において、とてもきれいな結果が出ている。最近5-HTTPLRの文化比較の研究をいくつか読んでいてやっとで遺伝子多型を検討する意義が分かってきたような気がする。S型は環境に敏感でアジア系の人でもアメリカ文化に適応的になるのはおもしろい。日本だけの研究で遺伝子取る意義がもう少し分かればいいかな。

 

論文

Ishii, K., Kim, H. S., Sasaki, J. Y., Shinada, M., & Kusumi, I. (2014). Culture modulates sensitivity to the disappearance of facial expression associated with serotonin transporter polymorphism (5-HTTLPR). Culture and Brain, 2, 72-88. https://doi.org/10.1007/s40167-014-0014-8