コーヒー1杯の暖かさ

心理学を研究する大学院生が、研究もそこそこちゃんとやりながら、日本の教育に一石を投じます。

画像の曖昧さと流暢さ(Jakesch et al., PLOS ONE, 2013)

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みなさんこんにちは!

微かに混じり合う教育と心理学とアートを考えていますじんぺーです。

今日も論文を読んでいきます。

  

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画像の曖昧さと流暢さ(Jakesch et al., PLOS ONE, 2013)

 結論から言うと、曖昧さは処理しにくいにもかかわらず、あるいは処理しにくいからこそ、芸術鑑賞には欠かせない要素であることを示唆した

 

背景

■曖昧性

・初期の処理段階では、感覚の曖昧さは視覚システムに影響

・感覚の曖昧さがなくなった高次の処理段階では、曖昧な解釈や複数の解決策が認知的な曖昧さの対象となる

■アートにおける曖昧性

・ 視覚的な美術は、曖昧さが本質的な特徴として議論されただけでなく、快い美的体験の源としても議論された領域

・処理しやすい(流暢な)刺激が最も好まれると主張する選好の形成に関する理論と矛盾しているように思われる

▶超現実的な芸術作品の複製と,それを修正・加工したものを用いて,あいまいな芸術作品とそうでない芸術作品に対する美的判断が,これらの対照的な理論のどちらによって説明されるのかを調べることを目的

・画像の中の概念的な曖昧さをうまく分類するためには,どのくらいの時間が必要なのかは未解決の問題

■感覚的な曖昧さ Sensory Ambiguity

・視覚科学の観点からは、網膜に降り注ぐ光のパターンは一般的に曖昧

・処理の初期段階では,慣れ親しんだ解釈が支配的

・視聴時間が長くなると、代替となる(見慣れない)解釈が可能になる

・過去の経験が曖昧な入力の解決を促す

・日常生活の設定では、事前の経験や知識が使用されるのに対し、視覚芸術では、曖昧さを解決するために慣習が使用されると論じている

■認知的曖昧さ Cognitive Ambiguity

・安定した知覚が1つの視覚的経験しかもたらさないが、複数の意味や解釈がある場合に生じるもの

・顔の表情が曖昧な場合、職務上の地位に関する役割の混乱、意思決定の際の情報不足などから、認知的な曖昧さが生じることがある

■曖昧な刺激への反応

・環境をうまくコード化することで、生物は適切な行動を計画し、引き起こし、実行することができ、出来事や刺激、人に反応したり、対応したりすることができる

・Epstein [27] は、曖昧さそのものが脅威や否定的な感情を呼び起こすと仮定

・処理の流暢性は、反応時間、嗜好、自信、親近感、真実などの様々な反応に影響を与えることが示されている

・曖昧な刺激の認識と処理には時間がかかるはず

■「曖昧さ優位性効果」

・いくつかの研究では,曖昧な単語(文脈のない孤立したもの)の方が,曖昧でない単語よりも反応時間が速く,単語の認識も速いことがわかった

・多義語(1つ以上の意味を持つ)には見られたが、同義語には見られなかった

・意味分類課題(2つの単語が関連しているかなどの意味解釈)を用いた場合には,逆のパターンが見られた(「曖昧さ不利効果」):より要求の高い意味の活性化プロセスに起因すると考えられている

■曖昧さに対する反応(つづき)

・シュルレアリスムの性質上、マグリットの絵画では、意味的に無関係な物体が場面の文脈の中に配置されたり(意味的違反)、構文的違反を表したりする

・矛盾は、意味的にありえないオブジェクトをシーンの文脈に挿入したり(意味的違反)

・シーンに関連するオブジェクトがありえない場所に移動したり空中に浮かんだりするように、シーン構造の構成を変更したり(統語的違反)することで生じる

・眼球運動を用いた研究では、意味的に適合しない物体は、刺激の開始直後に固定され、また、他の整合性のある物体よりも長く固定されることが示されている

▶このような「意味の飛び出し」があれば、曖昧な作品は、曖昧でない作品よりも早く分類されるかも

・流暢性の説明によれば、逆のパターンが予測される

▶曖昧な作品は、曖昧でない作品に比べて、より多くの認知資源を必要とし、結果的に処理が遅くなる

 

本研究

■刺激:36組の写真と32枚のディストラクタ画像:それぞれのペアは、マグリットのオリジナル絵画(曖昧)とその操作版(曖昧でない)で構成

A)曖昧なコンテンツと非曖昧なコンテンツの分類

・4つの提示時間(10ms, 50ms, 100ms, 500ms)を変化させて、曖昧な画像コンテンツとそうでない画像コンテンツの分類に成功した参加者のパフォーマンスを調べる

・実験1bでは,提示時間の違いではなく,反応時間(RT)の違いを分析した場合に,同様の結果が得られるかどうかを検証

・提示時間が短いほど、シーンの中の物体やシーン自体の分類に成功する(チャンスレベル以上になる)ことが示されている

B)曖昧さの評価

・曖昧さと流暢さが美的鑑賞(好感、興味)に与える影響を調べた

・対象物や出来事は、見慣れない、新しい、複雑だが理解できる場合に興味深い

・流暢性操作のコントロールとして,feeled fluency (流暢性の主観的経験)を測定

 

1A

■参加者:18歳から36歳までの心理学専攻の学生64名(M = 21.90, SD = 3.30; 男性11名,女性53名)

■デザイン:2(曖昧さ:曖昧対非曖昧)×4(持続時間:10ms、50ms、100ms、500ms)の混合デザイン,従属変数として,d'で表される分類性能(分類性能の感度)

■結果と考察

・持続時間(10,50,100,500 ms)を固定因子とし,d'を従属変数とするANOVA

・F(3,60) = 7.14, p < 0.01, ηp² = 0.25

▶提示時間が10msのときの参加者の分類パフォーマンスは,100ms(M = 1.12)および500ms(M = 1.37)のときよりも感度が低い(M = 0.39)

▶提示時間が100msのとき,半数の参加者がチャンスレベル以上の曖昧さを検出する

 

 1B

これまでの結果から、曖昧な絵は、曖昧でない絵に比べて、遅く(fluency account)または速く(object-scene violations)分類されると考えられた

■参加者:18歳から26歳までの心理学専攻の学生24名(M = 20.79; SD = 1.87; 17名の女性)

■手続き

・デザイン、全体の手順、試行手順は、実験1aと同じ

・固定された提示時間の代わりに、刺激の開始後、参加者はできるだけ早く反応するように求められた

■結果

・曖昧試行(M = 1546.09ms; SD = 670.66)と非曖昧試行(M = 1587.87ms; SD = 719.32)のRT平均値を、ペアサンプルt検定で比較した結果、t(23)=0.59, p = 0.55, n.s., Cohen's d = 0.05, で有意差なし

 

実験2

曖昧な(オリジナルの)マグリットの絵と(操作された)曖昧でないマグリットの絵が、10msと50ms(実験2a)、10msと100ms(実験2b)、10msと500ms(実験2c)で提示

■参加者:60名(各実験につき20名)

■デザイン:2(曖昧さ)×2(持続時間)の被験者内デザイン

■結果

・曖昧さ(曖昧対非曖昧)と持続時間(2a:10ms対50ms、2b:10ms対100ms、2c:10ms対500ms)を被験者内因子とし、好感度、興味、流暢性を従属変数とした3つの反復測定ANOVA

■好感度

・実験2c(10 vs. 500ms)では、曖昧さに対する有意な主効果が見られ、F(1,19) = 5.22, p = 0.03, ηp² = 0.22であったが、実験2aおよび2bでは、曖昧さの主効果は有意にならなかった

・実験2a[10 vs. 50ms: F(1,19) = 14.29, p = 0.001, ηp² = 0.43]と2b[10 vs. 100ms: F(1,19) = 11.62, p = 0.003, ηp² = 0.38]では,第2の被験者内因子である持続時間が好感度に有意に影響したが,2c[10 vs. 500ms: F(1,19) = 2.90, p = 0.11, n.s.]では影響しなかった

■興味

・3つの実験すべてにおいて、興味に対する曖昧さと提示時間の主効果、および2つの因子間の有意な相互作用が見られた

■知覚された流暢性

・3つの実験すべてにおいて、持続時間の強い主効果

・10msで提示された刺激よりも,50ms,100ms,500msで提示された刺激の方がより流暢であると評価した

・提示時間が短い場合も長い場合も,曖昧な画像よりも非曖昧な画像の方がより流暢であると有意に評価された。この効果は実験2cでは見られなかった

 

実験3

提示時間は2段階で変化させた(100ms対1000ms)

■参加者:30名の学部生

■結果

・好感度

曖昧さに対する有意な主効果、F(1,29) = 10.28, p = .003, ηp² = .25、および持続時間に対する有意な主効果、F(1,29) = 12.81, p = .001, ηp² = .31が見られた

・興味

曖昧さ、F(1,29) = 100.58, p < 0.001, ηp² = 0.78、持続時間、F(1,29) = 8.88, p = 0.006, ηp² = 0.24、曖昧さ×持続時間、F(1,29) = 15.16, p = 0.001, ηp² = 0.33、いずれも主効果と交互作用が有意になった

・流暢性の知覚

いずれの継続時間条件においても,曖昧でない絵は曖昧な絵よりもより流暢であると認識

 

まとめ

■パートA

・提示時間が10msの場合でも、チャンスレベル以上のパフォーマンスが得られる

・分類性能は一定の提示時間の間に上昇し、10msと100ms、10msと500msの間に有意な差が見られた

・曖昧な刺激とそうでない刺激の間にRT-の差は見られなかった

■パートB

・曖昧さと非曖昧さに対する美的判断は、処理の流暢さ、つまり提示時間に応じて増加するという持続時間仮説は、データによって部分的に確認

・曖昧さの効果は提示時間が長いほど生じるという仮説を支持

・概念的流暢性は、好感度よりもはるかに早い段階、すなわち50、100、500msにおいて、曖昧な絵に有利な興味評価に有意な影響を与える

・提示時間が短くなると、美的鑑賞や美的判断のモデルで提案されている情報処理が阻害される、その結果、知覚的流暢性のような初期の処理段階に作用する変数が、判断結果に大きく影響

・曖昧さのような高次の意味的要因が、約500ms以降に流暢性の効果を上書きし始めると仮定

 

コメント

絵画鑑賞における2つの曖昧性を論じている。知覚的な曖昧性については、詩歌や俳句にはないので、曖昧性の議論がまだしやすい(逆に難しい?)のかなあと思っている。時間経過によって、認知的(概念的)な曖昧性の影響度が増していくのは面白い。これで美的アハの議論も絡めながら考えていきたい。

 
論文

Jakesch, M., Leder, H., & Forster, M. (2013). Image Ambiguity and Fluency. PLOS ONE, 8(9), e74084. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0074084