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芸術における痛みの美的評価の内臓運動の根源:fMRI研究(Ardizzi et al., SCAN, 2021)

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みなさんこんにちは。

微かに混じり合う教育と心理学とアートを考えていますじんぺーです。

今日も論文を読んでいきます。

 

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芸術における痛みの美的評価の内臓運動の根源:fMRI研究(Ardizzi et al., SCAN, 2021)

 

結論からいうと、 痛みへの共感などの非芸術的なメカニズムが、芸術作品の美的体験の重要な構成要素であることを示唆した

 

背景

■他者の体性感覚体験や感情的な顔の表情を観察すると、同じ状態の一人称体験にも関与する感覚、前運動、内臓運動の脳領域がリクルートされることが、神経画像研究で明らかにされている

■我々の仮説は、芸術作品の感情的な内容が比喩的なレベルで表現されている場合、感情を経験し観察するためのこの共通の神経基盤が、美的判断(AJ)の形成にも役立つというもの

・芸術的な痛みを伴う表情とそうでない表情によって引き起こされる痛みへの共感に注目

・一人で痛みを体験する場合と、他人の痛みの表情を観察する場合の両方で活動する脳領域は数多くありますが、その中でも、前島皮質(AI)/先島皮質(fronto-insular)と帯状皮質(CC)、特に前内側(aMCC)と後前側(pACC)は、一貫して特定

・このような機能的な重複は、痛みへの共感が、痛みの直接体験にも関与する内臓運動や内臓感受性の神経構造によって支えられていることを示唆

・AIは痛みに特異的な領域ではないが(Kurthら、2010)、脳の病変によってAIが損傷を受けると、患者は他者の痛みの経験の認識が悪化し、他者の痛みの検出にAIが因果的に関与していることが示唆

■感情を経験したり観察したりするための共通の神経基盤の存在は、主に他者の感情の認識を支える機能的メカニズムとして研究されてきた

・脅威の意味合いを持つ単一の単語を読むときには,視覚言語的な大脳ノードだけでなく,恐怖を直接体験するための重要な領域である扁桃体もリクルート

・同様に、これらの副次的な機能的脳の活性化は、美的体験と関連

■美的体験は、感情-評価、感覚運動、意味-知識のプロセスの相互作用から生じる、複雑で特異な創発的精神状態と定義されている(Chatterjee and Vartanian, 2016)

・ボトムアップとトップダウンの両方のプロセスが、芸術の美的鑑賞の神経認知的裏付けの特異性を示す

・美の能力は、内側眼窩前頭葉(Ishizu and Zeki, 2011; Ishizu, 2014; Zeki et al., 2014)および背外側前頭葉皮質をリクルート

■運動野とAJ

・Calvo-Merinoら(2008)は、ダンス刺激の受動的な視聴中に運動前野に有意な活性化が見られ、それがその後の同刺激の美的評価と関連していることを明らかにした

・人物や風景を描いた静的または動的な表現の絵画の刺激を用いて、観察者の運動誘発電位の振幅と好感度の判断との間に、ダイナミズムの印象を媒介とした関連性がある(Fiori et al. 2020)

・負傷した身体の絵画表現(De Gelder et al.2018)や喪に服す場面の絵画表現(Labek et al.2017)を用いた2つの神経画像研究では、そのような芸術的刺激を楽しむ際に痛みへの共感の脳領域がリクルートされることを支持する結果

■目的

・芸術的な痛みの表情を観察することで、痛みの共感に関連する脳領域が活性化されるかどうかを明らかにすること

・この特異な活性化パターンが同じ画像のAJにも関与しているかどうかを理解すること

・芸術的な刺激で誘発される痛みと、非芸術的な刺激で喚起される痛みの2つの副次的な経験が、異なる脳の活性化パターンを引き起こすかどうか

を検証する

 

方法

■参加者:美術や美術史の訓練を受けていない健康な右利きのボランティア20名(女性11名、平均年齢=25.15、標準誤差(SE)=0.68)

■刺激:ニュートラルな表情(N = 12)と痛みを伴う表情(N = 12)

・刺激の半分はルネサンスやバロックの絵画から選び(Art Pain (AP) 刺激,N = 6; Art Neutral (AN) 刺激,N = 6),残りの半分はモデルの顔の表情を撮影した非芸術的なデジタル写真から選んだ(non-Art Pain (nAP) 刺激

■手続き

・1回7分の6回のラン

・各ランは,各条件(AP,AN,nAP,nAN)ごとに6回ずつ,計24回の無作為化試行

・fMRIセッションの直後に,スキャナーの外で実施されたAJタスクで,刺激が再び示された:参加者は「この画像はどのくらい芸術的に美しいと思いますか」という質問に、「まったく美しくない」(1)から「非常に美しい」(5)までの5段階の順序尺度を用いて回答

 

結果

■ANOVA

・Emotionの主効果では、Contentに関わらず、痛みを伴う表情に対して、pACCとaMCCにかなり広範囲の活性化が見られ、一部は内側前頭回(MFG)にまで及んだ

・コンテンツの主効果では、主に非芸術的な刺激によって後部CC(PCC)/楔前部が有意に活性化

・Emotion×Contentの交互作用では、右下後頭回(rIOG)から踵骨回までに位置するクラスターの活性化が高まり、APとnANはANとnAPよりも大きな活性化を示した

■AJとの関連

・ΔAJAと、帯状回および島皮質から抽出したβ重みとの間で行ったピアソンの相関分析は、有意であった

・ΔAJAとFusiform Face Areaから抽出したβ重みとの間で行ったPearsonの相関分析は有意ではなかった

■考察

・感情の主効果から得られた活性化は、痛みの脳領域の活性化に期待される共感を示した(すなわち、両側のAIとpACCおよびaMCC)

・Ishizu and Zeki(Ishizu and Zeki, 2017)は、人が悲しみのある芸術作品を美的に評価する際に、他人の悲しみの共感体験に関わる脳領域が、美の判断に関与する領域と機能的に接続されていることを発見し、共感的関与と美的体験がいかに相互に関連する現象であるかを示唆

・今回の結果は、観察された痛みの経験に直接アクセスすることが、絵画に表現された痛みを伴う表情のAJと一致することを示している

▶特定の状況下において、美に特化していない感覚や内臓運動による画像への関与がAJの形成に寄与し、美的体験を構成する感情評価、感覚運動、意味知識のプロセスを結びつけることを示唆

 

コメント

神経美学の研究の一環になるだろうが、美を表現する脳領域という攻め方ではなく、あくまで運動系や体性感覚系を中心としたBrainの結果と行動の美的判断の結果をリンクさせるお見事な研究。

 

論文

Ardizzi, M., Ferroni, F., Umiltà, M. A., Pinardi, C., Errante, A., Ferri, F., Fadda, E., & Gallese, V. (2021). Visceromotor roots of aesthetic evaluation of pain in art: an fMRI study. Social Cognitive and Affective Neuroscience, May, 1–10. https://doi.org/10.1093/scan/nsab066