コーヒー1杯の暖かさ

心理学を研究する大学院生が、研究もそこそこちゃんとやりながら、日本の教育に一石を投じます。

"I just don't get it": アーティストの意図がアートの評価に与える影響(Jucker et al., Empirical Studies of the Arts, 2014)

f:id:jin428:20210623111935j:plain

みなさんこんにちは!

微かに混じり合う教育と心理学とアートを考えていますじんぺーです。

今日も論文を読んでいきます。

  

www.jinpe.biz

 

"I just don't get it": アーティストの意図がアートの評価に与える影響(Jucker et al., Empirical Studies of the Arts, 2014)

結論からいうと、芸術家の意図やメッセージを認識することが、人々が芸術や良い芸術と考えるものに影響を与えることを示唆した。

 

背景

■JuckerとBarrett(2011)は、一般の人々が対象物が「アート」であるかどうか、また「良い」アートであるかどうかを判断する際に、知覚されたアーティストの意図やメッセージが果たす役割を強調

 ・大規模な相関研究の結果によると、人々は、親しみやすさの効果を考慮しても、アーティストの意図が理解しやすい作品を好むことが示唆

■芸術作品が人工物である以上、アフォーダンスの検出や目的論的な推論を誘発するものでなければならない

・絵画や彫刻、インスタレーションを目にした人は、それがどのように操作できるのか、何に使われるのか、といった目的論的な推論を抱くかもしれない

・芸術作品は、物や人工物に付随する期待を引き起こしながら、同時にその期待を裏切る、曖昧な人工物であると言えるのではないだろうか

・芸術作品は、明らかな実用的機能を持たず、どのような形態をとることも可能であるため、芸術作品が「何のために」存在するのかを理解するためには、作者の意図を推測することが唯一の解決策であると、人々は直感的に考えるかもしれない

 ・芸術作品を扱う際には、形や機能だけでは不十分であり、芸術作品に近づき、理解するためには、芸術家の意図を推測するしかない

■目的

・アート体験はアーティストの意図を推測し、関連性の力学に制約されたコミュニケーションの一形態として直感的に評価されるという主張を検証

・「芸術作品は作者の意図に基づいて分類される」という仮説を検証

・芸術作品のタイトルがその鑑賞にポジティブな影響を与える可能性があるという仮説を検証

・作品がどのように作られたかという情報が作品の評価に影響を与えるという仮説を検証

 

4つの実験に共通する方法

■参加者:合計505人(26.43歳、SD=10.05、範囲:13~65歳)

■刺激:知られていない作品

■手続き:

・オンラインで調査を行った

・ページの上部に、評価対象となる美術品の大きなカラーイラスト(作品の下に、アーティストの名前、作品のタイトルと制作年を記したキャプション)が掲載

 

実験1

■芸術作品が作者の意図を推測させるきっかけとなった場合、最初の鑑賞者は、上述のように芸術作品であるかどうかを判断するために、作者の意図を利用するかもしれない

・一連の画像に、対象となる作品が意図的に作られたものであるか、あるいは事故によって作られたものであるかを表現したカバーストーリーを付け、参加者にこれらの画像が「芸術」の一例であるかどうかを判断させる

■材料:12枚の画像(絵画4枚、ドローイング3枚、写真3枚、ミクストメディア2枚)

■デザイン:参加者間でアーティストの発言がない(コントロール)、意図的なアーティストの発言、または意図的ではないアーティストの発言に分けられた

・1(絶対に芸術ではない),4(芸術であるかもしれない),7(絶対に芸術である)の7段階のリッカート尺度で判断

・「もしあなたが画廊のキュレーターだったら,この作品を展覧会に選ぶ可能性はどのくらいあるか」を1(まったくない),4(中程度の可能性),7(非常に高い)の7段階のリッカート尺度で判断

■結果

・「アートネス」の評価に対する条件の主効果は、F(2, 73) = 4.071, p < 0.05, R2 = 0.10で有意

・意図的なアーティストの発言を伴う画像の評価の平均は、意図的でないアーティストの発言を伴う画像よりも高かった(平均差=0.58、95%CI 0.03〜1.13、p<0.05)

 

実験2a

■文脈や歴史的な情報が芸術鑑賞にプラスの影響を与えることは、理論的な研究(Bloom, 2010; Fisher, 1984; Franklin, 1988; Levinson, 1985; Schwartz, 2007)や調査データによって裏付けられている

■刺激:12点の作品(絵画10点、ドローイング1点、コラージュ1点)

・これらの作品には、それぞれ3つのタイトルをつけた:①絵から見えるものを一言で表現した「descriptive」条件,②解釈を提案するもので、通常は概念「elaborative」条件,③視聴者にとってより「relevant」条件

・例えば、ある絵のタイトルが「衝動性」であったのに対し、関連するタイトルは「乱闘」

■デザイン:参加者間で4つの群に分けた:1. タイトルなし(コントロール),2.説明的なタイトル,3. 凝ったタイトル,4.関連性のあるタイトル

■結果

・理解度:コントロールM = 2.73, SD = 1.00; 説明的:M = 3.39, SD = 1.22, 精緻化:M=3.53、SD=0.90,関連性あり:M = 4.12, SD = 0.70

・ANOVA:F(3, 102) = 9.366, p < 0.0001, R2 = 0.21

・関連条件の評価は、対照条件(平均差=1.38、95%CI 0.69〜2.08、p<0.0001、r=0.46)および記述条件(平均差=0.73、95%CI 0.01〜1.45、p<0.05、r=0.23)の評価よりも高かったが、精緻条件(平均差=0.59、95%CI -0.12〜1.30、p=0.141)の評価とは有意な差がなかった

・好き:ANOVAでは、これらの平均値に有意な差は見られず、F(3, 102) = 0.29, p = 0.832

■考察

・作品の理解と「好き」の間には因果関係がないのかもしれない

 

実験2b

■2aを参加者内デザインで

■結果

・好き:コントロール、M = 3.53, SD = 1.18; 記述的。コントロール:M = 3.53, SD = 1.18, 記述的:M = 3.47, SD = 1.14, 精巧:M = 3.63, SD = 1.18 M=3.63、SD=1.25、関連性あり。M = 3.81, SD = 1.19

・ANOVA:「好き」の評価に対する条件の主効果は、F(3, 339) = 2.947, p < 0.05, η2 = 0.03

・関連性のある条件では記述性のある条件よりも作品の評価が高い

・作家の意図の理解を助けるタイトルは、美術鑑賞にプラスの影響を与える可能性があるという仮説を支持するもの

・付随する情報が芸術鑑賞に影響を与えることを発見した研究者は、タイトルだけでなく、アーティストのステートメントや解釈文を用いた研究者だけ

 

実験3

■刺激:肖像画、風景画、静物画、動物画など、さまざまなジャンルの写実的な絵画32点

■手続き

・参加者は、「高努力」条件と「低努力」条件のいずれかに無作為に割り当てられた

■結果

・高努力条件での「好き」の平均値は4.82(SD=0.69)、低努力条件での平均値は4.06(SD=0.75)

・t(48) = 3.721, p < 0.001, 平均差の95%CI 0.35〜1.17, d = 1.05

・参加者は,刺激が絵画と表示されている場合には,より多くの労力と技術を必要とすると考えていた

■考察

・優れた芸術作品とは、目を楽しませるだけでなく、知性をも満足させるものでなければならないということ

 

コメント

いくつかの実験で,作者の意図と作品の評価の関連を調べた丁寧な研究だと思った。タイトルを記述的・精緻・関連性という3群に分けたのが面白かった。

 

論文

Jucker, J.-L., Barrett, J. L., & Wlodarski, R. (2014). “I Just Don’T Get it”: Perceived Artists’ Intentions Affect Art Evaluations. Empirical Studies of the Arts, 32(2), 149–182. https://doi.org/10.2190/EM.32.2.c