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悲しみから生まれる美の体験(Ishizu & Zeki, Human Brain Mapping, 2017)

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みなさんこんにちは!

微かに混じり合う教育と心理学とアートを考えていますじんぺーです。

今日も論文を読んでいきます。

  

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悲しみから生まれる美の体験(Ishizu & Zeki, Human Brain Mapping, 2017)

結論から言うと、120枚の画像を「美しくて悲しい」、「美しくて楽しい」、「中立」、「醜い」の4つのカテゴリーに分類して視聴し、再評価した結果、内側眼窩前頭葉皮質(mOFC)は、どちらのタイプの美しさを体験しているときにも活動した

 

背景

■神経美学

・内側眼窩前頭皮質(mOFC)には、音楽や視覚芸術などの感覚的な情報源に関わらず、美の経験とパラメトリックに相関する共通の領域が存在(例:Ishizu and Zeki, 2011)

・悲しみの美と喜びの美を区別することは重要ですが、あまり行われていませんし、十分に強調されていない

・美しさもさることながら、この2つのカテゴリーに共通するのは「共感」であり、人間は他人の気持ちに気づき、喜びや悲しみなどの感情をさまざまな程度で経験することができる

■崇高と美

・崇高さには負の感情が含まれているという一般的な説明(「不快感からくる喜び」や「恐怖と混ざり合った美しさ」)は、美しいものを体験するときに行われる脳活動とは異なるパターンに反映(Ishizu and Zeki, 2014)

 

方法

■参加者:異なる文化や民族的背景を持つ健康な右利きのボランティア21名(女性11名、男性10名、平均年齢28.6歳)

■手続き

・被験者は,撮影の3〜7日前に実験室を訪れ,実験についての説明を受けた後,心理物理学的テストとして,2つの質問票を用いて,美的価値と感情的価値に基づいて刺激を評価

・美的評価では,被験者は美的感覚の強さに応じて,写真を5つのグループに分類(リッカート尺度で,5(「とても美しい」)から1(「とても醜い」)まで,3は「中立」)

・感情評価では,5は「とても楽しい」,3は「ニュートラル」,1は「とても悲しい」

・この800枚の評価写真の中から、「悲しげな美しさ」、「楽しげな美しさ」、「中立」、「醜い」の4つのカテゴリーに当てはまる120枚を被験者ごとに選んだ

・「悲しみの美」に分類された写真は、感情スコアで1、美的スコアで5の評価を受けたもので、「喜びの美」に分類された写真は、感情スコアで5、美的スコアで5の評価を受け、「中立」と評価されたものは、両スコアで3の評価を受け、醜いと評価された刺激は、情緒的評価が3(ニュートラル)、美的評価が1となった

・スキャンセッションでは,参加者に,各画像を見た後で,今度は3対1の尺度(美しい,中立,醜い)で美的に再評価するよう求めた

・スキャンの直後に、被験者は(スキャナ内と同じ順序で提示された)刺激の感情的価値を3段階のリッカート尺度で再評価(喜び:3、中立:2、悲しみ:1)

 

結果

■Behaviour

・各条件(例えば、美しい、哀しい)が30回出現することが理想だが実際はそうはならなかった

・「喜びの美」(3-3)が32.4、「悲しみの美」(3-1)が31.4、「ニュートラル」(2-2)が26.9、「醜さ」(2-1)が29.3

■Brain

・「醜さ」に対する「悲しげな美しさ」と「喜びに満ちた美しさ」のコントラスト推定値の平均値がゼロと異なる(悲しげな美しさ、t = 24.3, df = 19, P < 0.001; 喜びに満ちた美しさ、t = 39.7, df = 19, P < 0.001)

・2つの条件を直接比較すると,喜びのある美しさのコントラスト推定値の平均値は,悲しみのある美しさのコントラスト推定値よりも高い値を示した(paired t-test, t = 10.4, df = 38, P < 0.001)

■悲しみの美>醜さ

・中前頭回(MFG)を含む前頭葉外側の活動が見られ、この活動の帯は下前頭回(IFG)と背外側前頭前皮質(dlPFC)にまで広がっていた

・後帯状皮質(PCC)は、尾状体(頭と胴体)にまで及んでいるが、これも活発

・さらに、小脳の一部(第6葉)や背側ACCにも活動が見られた

▶悲しい体験の時に活動するとされていたいくつかの皮質領域が、悲しみの美と醜の対比の時にも活動

■歓喜の美と醜の対比

・右mOFC、吻側前帯状皮質(ACC)に隣接する領域が活性化

・視覚的な美しさの体験や美的判断・評価判断において活動することがわかっている右尾状核や前頭葉ACC(pgACC)の本体も活動

・両側の海馬後部と小脳の一部(Lobule VII crus I and II)にも活性化

・悲しみの美は背側(dACC),喜びの美は前頭側(pgACC)に分けられる

■「悲しい」>「楽しい」

・感情的・社会的な痛みの研究でよく観察される楔前部に内在する左下頭頂葉(IPL)や、感情的な状態で関与することがわかっている両側のMFGの活動が見られた

・喜び>悲しみの美しさという逆の対比では、他者への共感の制御に関与すると考えられている上側頭頂回(SMG)を含む右側の側頭頭頂接合部(TPJ)の活性化

▶喜びの美の体験と悲しみの美の体験には、相関して異なるパターンの皮質活動が見られた:前者にはTPJとSMGが、後者には左頭頂葉、楔前部、両側MFGが含まれていた

・併合解析([悲しみの美>醜さ]∩[喜びの美>醜さ])では、SVCを適用したmOFCと左小脳(小葉VII)に共通の活性化が見られた

■機能的結合

・悲しみの美では、mOFCとSMA、MCCに侵食された領域、その他のいくつかの領域との間の機能的結合が高まっている

・悲しみの美の体験時は喜びの美の体験時に比べてSMA/MCCとmOFCの結合性が強いことがわかった(t(19)=4.03, P < 0.01)

・一方、喜びに満ちた美しさの体験では、mOFCと前外側内側前頭前野(前rMPFC)、中側頭回(MTG)などの領域との間に機能的な結合性の増加が見られた

 

コメント

事前に800枚もの絵を4つに分類して120枚にする手間がなかなかすごいと思った。結果もとても分かりやすく、悲しみの美と喜びの美の特徴がきれいに表現されている。

 

論文

Ishizu, T. and Zeki, S. (2017), The experience of beauty derived from sorrow. Human Brain Mapping, 38: 4185-4200. https://doi.org/10.1002/hbm.23657