コーヒー1杯の暖かさ

心理学を研究する大学院生が、研究もそこそこちゃんとやりながら、日本の教育に一石を投じます。

匂いで誘発される快楽的文脈が、ヒトの脳における顔の表情の識別に影響を与える(Poncet et al., Biological Psychology, 2021)

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みなさんこんにちは!

微かに混じり合う教育と心理学とアートを考えていますじんぺーです。

今日も論文を読んでいきます。

  

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匂いで誘発される快楽的文脈が、ヒトの脳における顔の表情の識別に影響を与える(Poncet et al., Biological Psychology, 2021)

結論から言うと、顔と匂いの両方の快楽的価値に依存して、価値のある匂いが顔の表情の神経弁別に影響を与えることが示唆

 

背景

■表情は,怒り,嫌悪,恐怖,喜び,悲しみ,驚きといった普遍的な基本感情を伝達するという仮説に基づいて,顔の動作のいくつかのパターンがよく特定

・匂いは顔の符号化と認識に影響を与える(Walla, Mayer, Deecke, & Lang, 2005; Cecchetto et al, 2003; Walla, 2008)

・顔の魅力の評価(Demattè, Österbauer, & Spence, 2007; Parma, Tirindelli, Bisazza, Massaccesi, & Castiello, 2012; ただし、Lundström & Olsson, 2005を参照)

・好感度/不快感(Cook et al., 2015, 2017, 2018; Li, Moallem, Paller, & Gottfried, 2007)

・あるいは信頼度、信用度、能力度(Dalton, Mauté, Jaén, & Wilson, 2013)なども

・匂いの手がかりによる顔の知覚の変調は、幼い乳児においてすでに観察

・顔の表情が曖昧な場合(すなわち、中立的な表情とモーフィングされている場合)、ストレス臭があると、「恐怖」または「怒り」の反応数が増加する(Mujica-Parodi et al.2009; Zhou & Chen, 2009)

■体臭以外の匂いが表情の評価に与える影響への関心が高まっていますが、研究によって結果はより一貫性のないものになっている

・匂いのコンテクストが一致している場合、幸せな顔と嫌な顔はそれぞれ、より楽しいもの、不快なものと評価される(Cookら、2017)

・中性的な顔について、Cookら(2015、2018)は、不快な匂いの文脈ではポジティブな評価が少ないが、快い匂いの文脈ではポジティブな評価が多いことも観察している(Cookら、2015)

■ERP

・あらゆる顔の表情(研究によっては怒り、嫌悪、恐怖、幸福、悲しみ、中立など)に対して記録されたERPが、価のある匂い物質対対照の匂い物質が存在するだけで、早期(すなわち、顔開始後160ms前後)に変調することが報告

・匂いと表情の間では強く異なる変調パターンが観察され、顔刺激開始後の待ち時間も変化していた

 

方法

■参加者:18名の被験者(女性12名、平均年齢=25.8±7.2(SD)歳、範囲19~39歳)

・サンプルサイズは,顔の表情の識別に対する匂いの効果が中程度(すなわち,Cohen's d = +0.65),有意水準α = .05(両側),標準力1-β = .80を考慮して,先験的に推定

■刺激

・5つの感情的な表情(嫌悪,幸福,怒り,恐怖,悲しみ)と中性を描いた6つの個別の顔の画像

・嗅覚刺激は,特定の匂いと快楽的価値が混同しないように,価値が対比された文脈ごとに3種類の匂いを用いた

・38人の参加者(平均年齢:24.8±3.78(SD),範囲:20-35,女性22人)が10点満点で評価した52種類の匂いの中から選んだ

・不快な匂いは、嘔吐物の匂いがするイソ吉草酸(Aldrich, Steinheim, Germany)が1.71±1.74、キャベツの腐ったような匂いがするエチルメチルスルフィド(96 %, Aldrich, CAS: 624-89-5, Steinheim, Germany)が2.21±2.07、魚の腐ったような匂いがするトリエチルアミン(TEA, Aldrich, CAS: 121-44-8, Steinheim, Germany)が2.45±1.59

・3つの快臭物質は "ペパーミント精油」(Mentha piperita, Pranarôm, Ghislenghien, Belgium)の評価は6.79±1.68(SD)、「スイートオレンジ精油」(Citrus sinensis, Orange douce, Nature & Découverte, Laboratoire Sirius, Cambounet-sur-le-sor, France)の評価は6.97±1.30、「洋梨の香り」(Arôme Poire, Meilleur du Chef, Bassussary, France)の評価は7.18±1.37

■手続き

・基本レートの刺激が6Hz(つまり6枚/秒)

・嗅覚刺激の手順は、Leleu, Godardら(2015)で用いられたものと同様:におい物質を無香性の吸着材(P100, Powersorb, 3 M)にスパイクし、250mlのポリプロピレン製の専用ボトルに入れた

・ボトルは、一定の空気供給装置(0.1バール)に接続した。空気の流れはチャコールフィルターで浄化され,室温で供給された

・低圧であれば、実験中に気流を検知することはできないかつ、聴覚的にも空気の流れがわからないようにした

・対照となる匂いについては、無香性の鉱物油のみを6回繰り返した

・無臭のミネラルオイルが各刺激シーケンスの後、次のシーケンスの前に最低30秒間拡散され、次のシーケンスの匂いの分子を受け取る前に嗅覚受容体に一時停止をもたらした

・実験終了時には,各被験者による匂いの評価を行った:実験中に何か特別なことに気づいたかどうかを尋ねた

・全員が、表情豊かな顔が素早く現れることに気づいたと答えた一方、実験中に匂いに気づいたと自発的に報告したのは11人だけで、すべての匂いを検出した人はいなかった

 

結果

■signal-to-noise ratio(SNR)

・テストした3つの表情(嫌悪感,幸福感,中立感)について,明確な表情固有の反応が見られた

・これらの反応は、主に後頭側頭部と後頭頭頂部の外側に記録され、右半球が優位

・表情特異的な反応は、嫌悪感(SNR≒1.3、信号増加率30%)や中立性(SNR≒1.2、信号増加率20%)よりも幸福感(SNR≒1.45、信号増加率45%)の方が大きいにもかかわらず、すべての表情で高いSNRを示して

・反復測定ANOVAでは,目視で確認したところ,表情の主効果は,F(2,34) = 6.13, η2p = 0.27, p = 0.005であり,幸福(0.52 ± 0.07 [SEM] μV)の方が,嫌悪(0.37 ± 0.05 μV, p = 0.02)および中立(0.36 ± 0.04 μV, p = 0.01)よりも大きな表情特異的反応

・半球の主効果も有意で,F(1,17) = 10.41, η2p = 0.13, p = 0.005となり,3つの表現を合わせた場合,RH(0.48 ± 0.06 [SEM] μV)の方がLH(0.36 ± 0.04 μV)よりも大きな反応

■匂い

・匂いの持つ快楽的な価値観が表情の迅速な識別に影響を与えている

・中性の場合は、対照群に比べて、快臭群では反応が大きく、不快臭群では反応が小さくなる

・表情と匂いの間にわずかに有意な相互作用が見られた(F(4,68) = 2.48, η2p = 0. 13, p = 0.052)

・中性に対する反応に対する匂いの文脈効果(F(2,34) = 3.41, p = 0.045)は有意、嫌悪感(F(2,34) = 2.06, p = 0.14)と幸福感(F(2,34) = 0.04, p = 0.96)は非有意

・ポストホック比較の結果、コントロール臭(0.29±0.04μV、p=0.006)に比べ、快臭(0.47±0.06(SEM)μV)では有意に大きな振幅が得られ、不快臭(0.33±0.05μV、p=0.067)では有意な差が生じる傾向

 ・29個の後部チャンネルにおける反応の有意性を調べた

・18名の参加者のうち、16名は、後部電極において、快感文脈と対照文脈の間で少なくとも1つの有意差のある反応を示し、15名は、快感文脈でより大きな反応を示す電極を少なくとも1つ提示

 

コメント

匂いのプライミングって自分が知らなかっただけでけっこうやられてるんだなあと思った。閾値下での曖昧な表情でも匂いのプライム効果があるならけっこう妥当性あるよなあと思う。俳句の臨場感的な意味でもやってみたさ上がってきたなあ。コロナだから喚起しないと実験しちゃだめかな… 

 

論文

Poncet, F., Leleu, A., Rekow, D., Damon, F., Durand, K., Schaal, B., & Baudouin, J. Y. (2021). Odor-evoked hedonic contexts influence the discrimination of facial expressions in the human brain. Biological Psychology, 158(April 2020), 108005. https://doi.org/10.1016/j.biopsycho.2020.108005