コーヒー1杯の暖かさ

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瞳孔拡張は意味の曖昧さと音響劣化に敏感に反応する(Kadem et al., Trends in Hearing, 2020)

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みなさんこんにちは!

微かに混じり合う教育と心理学とアートを考えていますじんぺーです。

今日も論文を読んでいきます。

  

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瞳孔拡張は意味の曖昧さと音響劣化に敏感に反応する(Kadem et al., Trends in Hearing, 2020)

結論から言うと、曖昧な単語が含まれている文では、ノイズがなくても瞳孔の拡張が見られ、SNRが低いと瞳孔の拡大が大きくなることがわかった。

 

背景

■1つの音源(声)を識別し、追跡し、理解するためには、多くのプロセスが必要

・音声がエネルギー的にマスキングされている場合 (ターゲットと同じ聴覚周辺のニューロンを興奮させる周波数成分を持つ音によるマスキング; energetic masking: Schneider et al., 2007; Shinn-Cunningham, 2008)、音声信号の一部が消去され、知覚された音声の断片から欠落した情報を推測する必要がある

・効果的なワーキングメモリと意味的な知識へのアクセスが必要(Johnsrude & Rodd, 2016)

■言語的な要因も音声理解を困難にする (Gibson, 1998; Gibson & Pearlmutter, 1998)

・「The dog yapped at the squirrel」のように、発話が単純でわかりやすい場合もある

・言語構造が複雑であったり(「It was the squirrel at which the dog yapped」)

・単語に複数の意味があったり、一般的ではないために(「The bark ruffled the sciurid」)

・理解を助けるような単語や文のレベルでの明確な意味性が(聞き手にとって)欠けている場合もある

■主観的な評価は、聴取努力を評価する一般的な方法(Alhanbaliら、2017年、Gatehouse & Noble、2004年、Kruegerら、2017年、Larsbyら、2005年、Wendtら、2016年)

・主観的な測定には、文脈効果(参加者は、自分の経験した努力を絶対的なものではなく、実験内の異なる条件に対して相対的に評価することがある)や尺度の使用における被験者間の違いなど、多くの限界

・瞳孔測定(個人の瞳孔の拡大を測定する)は、精神的努力の研究に古くから用いられてきた

・2つの研究では、構文的に複雑な目的語先行の文では、複雑ではない主語先行の文に比べて瞳孔拡張が促進されることが示されている(Ayasse & Wingfield, 2018; Wendt et al., 2016)

■意味的に曖昧な単語の存在は認知的に厳しいことが示唆(Johnsrude & Rodd, 2016; Rodd, in press; Rodd et al., 2005, 2010a)

・意味的に処理しにくい孤立した単語(単語の頻度や親しみやすさなどに基づく;Chapman & Hallowell, 2015)や、語彙的な競争下で提示された単語(Kuchinsky et al.2013)は、意味的に処理しやすい単語に比べて、より大きな瞳孔拡張をもたらす

■音響的な課題と言語的な課題は、瞳孔散大への影響において相互に影響しあう可能性がある

・言語的課題の効果は、音響的課題が低い場合に比べて高い場合に特に顕著に現れる可能性(Kuchinskyら、2013年、Wendtら、2016年)

■本研究

・意味的な曖昧さと音声の明瞭さが文の理解度、瞳孔の拡張、マイクロサッカード速度に影響を与えるかどうかを調べるために、2つの実験を行い

 

方法

■参加者:カナダの大学院生および学部生73名

■刺激:文の曖昧さが行動や脳活動に及ぼす影響を調べた先行研究の文素材を使用した(Rodd et al.2005, 2010a)

・高曖昧性(HA)条件では、文には2つ以上の曖昧な単語(例:The shell was fired towards the tank)が含まれるが、文の意味は曖昧ではない

・低曖昧性(LA)条件の文には、曖昧性の高い単語は含まれていなかった(例:Her secrets were written in her diary; Rodd et al.2005)

・118文(HA59文、LA59文)の原文はイギリス英語で、カナダのオンタリオ州南部出身の女性英語話者によって再録音された

・文章の持続時間は1.4秒から4.8秒

・低SNRまたは高SNRの30人の話者の雑音で文をマスキング

 ・30-talker babbleは、babbleノイズが文の開始の3秒前に始まり(Zekveld et al.2019参照)、文のオフセットの1.2秒後に終わるように、ターゲット文にカットして追加した

・雑音レベルはHAとLAの条件で一定であるのに対し、文のレベルはSNRが+6dB(高SNR)または0dB(低SNR)になるように調整した

・実験2(図1B)では,文は透明な条件で提示されるか,背景雑音を加えて提示されるかのいずれかであった:背景雑音は,対象文の振幅エンベロープを,ヒルベルト変換を用いてピンクノイズ(1/fノイズ)に適用することで,文ごとに独自に作成した

■手続き

・文のオフセットから1.2秒後にプローブワードが提示され,参加者はプローブワードが文と意味的に関連しているか,関連していないかを判断するよう求められた

・2×2階調の被験者内デザイン(Clarity×Ambiguity[LA、HA])

・平均瞳孔拡張、ピーク瞳孔拡張、ピーク瞳孔潜時の3つの従属測定値を抽出

 

結果

■実験1

・意味関連性課題の平均正答率は,すべての条件で0.8以上

・正答率は SNR が +6 dB のときに 0 dB SNR-Clarity のときよりも高くなった F(1, 37) = 54.103, p < 1e-8, η2p = 0.594

・曖昧さの主効果は有意ではなく,F(1, 37) = 2.698, p = .109, η2p = 0.068

・明瞭さと曖昧さの交互作用は有意であり,F(1, 37) = 8.265, p = .007, η2p = 0.183:SN比が0dBの場合、HAセンテンスの方がLAセンテンスよりもパフォーマンスが悪かったが(F(1, 37) = 8.355, p = .0066, η2p = 0.184)、SN比が+6dBの場合は、F(1, 37) = 0.564, p = 0.458, η2p = 0.015

・瞳孔面積の平均値についてrmANOVA:+6dB SNR-Clarityよりも0dB SNRの方が瞳孔面積が大きいF(1, 37) = 10.34, p = 0.003, η2p = 0.218

・LA文に比べHA文では瞳孔面積が大きくなる傾向があり,Ambiguity(曖昧さ)の効果が現れている

・明瞭度×曖昧度の交互作用も、F(1, 37) = 3.91, p = 0.056, η2p = 0.095と、有意に近い値:単純効果を分析したところ、SNRが+6dBの場合、HA文はLA文に比べて瞳孔面積が大きく、F(1, 37) = 8.72, p = .005, η2p = 0.191であったが、SNRが0dBの場合はF(1, 37) = 0.13, p = .724, η2p = 0.003ではなかった

・ピーク瞳孔の拡張は、SNRが0dBの時の方がSNR-Clarityが+6dBの時よりも大きいF(1, 37) = 18.11, p = 1.3e-4, η2p = 0.329

・HA文とLA文では、HA文の方がLA文よりも大きかった-Ambiguity: F(1, 37) = 4.72, p = 0.036, η2p = 0.113

■実験2

・意味関連性課題の平均正答率は、すべての条件で0.85を超えた

・SNRが-2dBの場合は、明瞭な文章に比べて正答率が低かった。F(1, 34) = 24.298, p = 2.1e-5, η2p = 0.417

・「曖昧さ」の効果は、F(1, 34) = 0.512, p = .479, η2p = 0.015と有意ではなかったが、「明瞭さ」と「曖昧さ」の交互作用は、F(1, 34) = 6.797, p = .013, η2p = 0.167と有意

・瞳孔面積の平均値についてrmANOVAを行ったところ、2dB SNRでは明瞭な文章に比べて瞳孔面積が大きくなる:F(1, 34) = 55.69, p = 1.169e-8, η2p= 0.621

・平均瞳孔面積もLA文よりHA文の方が大きかった-Ambiguity: F(1, 34) = 5.54, p = 0.025, η2p= 0.14 

・明瞭度と曖昧度の交互作用は、F(1, 34) = 1.80, p = 0.188, η2p= 0.05と、有意ではなかった

・平均瞳孔面積は、LA文よりもHA文の方が大きく、F(1, 34) = 4.69, p = 0.037, η2p= 0.121

・クリア時に比べて騒音時にはピーク瞳孔面積が大きくなった。F(1, 34) = 53.57, p = 1.77e-8, η2p= 0.612

・HA条件はLA条件よりも大きかった-Ambiguity: F(1, 34) = 6.729, p = 0.0139

・明瞭度×曖昧度の交互作用は、F(1, 34) = 0.2834, p = 0.283, η2p = 0.034と有意ではなかった:瞳孔面積のピークは、HA文がLA文よりも明確な場合に大きく、F(1, 34) = 4.96, p = 0.033, η2p = 0.127

・瞳孔拡張のピークはLA文よりHA文の方が遅かった、Ambiguity: F(1, 34) = 11.487, p = 0.002, η2p = 0.253

■瞳孔面積に対する明瞭性×曖昧性の交互作用を観察するための統計的検出力を高め、行動パフォーマンスと瞳孔変数の間の相関関係を調べるために、実験1と2のデータをプールした(N = 73)

・SNRが高い条件では低い条件に比べて行動パフォーマンスが高かったClarity: F(1, 71) = 75.909, p < .00001, η2p = 0.517

・曖昧さの主効果はF(1, 71) = 2.972, p = 0.089, η2p = 0.040と有意ではなかった

・明瞭さと曖昧さの交互作用があり、F(1, 71) = 14.905, p = 0.000247, η2p = 0.174

・低SNRではLA文に比べてHA文の方がパフォーマンスが低く、F(1, 72) = 13.561, p = .0004, η2p = 0.158、高SNR条件ではLA文に比べてHA文の方がパフォーマンスが高くなる傾向が見られた、F(1, 72) = 3.767, p = .0562, η2p = 0.050

・Clarityの効果はAmbiguityの効果よりも大きく、F(1, 72) = 45.333, p < .0001, η2p = 0.386

・平均瞳孔面積は、高SNR条件と比較して低SNR条件の方が大きかった-Clarity: F(1, 71) = 69.774, p = 3.7e-12, η2p = 0.496

・HA文とLA文では、HA文の方がLA文よりも大きかった。F(1, 71) = 9.32, p = 0.003, η2p = 0.116

 

コメント

意味の曖昧性とノイズの2要因が正答率と瞳孔径に影響を与えるというオーソドックスな実験研究。交互作用もしっかり出ていて、いい研究感。

 

論文

Kadem, M., Herrmann, B., Rodd, J. M., & Johnsrude, I. S. (2020). Pupil Dilation Is Sensitive to Semantic Ambiguity and Acoustic Degradation. Trends in Hearing. https://doi.org/10.1177/2331216520964068