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畏敬の念が「My body is Mine」という感覚を解放する (Takano & Nomura, Cognition and Emotion, 2021)

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みなさんこんにちは!

じんぺーです、今日も論文を読んでいきます。

  

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畏敬の念が「My body is Mine」という感覚を解放する (Takano & Nomura, Cognition and Emotion, 2021)

結論から言うと、ラバーハンド錯視実験では、畏敬の念がラバーハンドに対する身体所有感を高め、この効果は小さな自己を経験した参加者に顕著であることが示された。

 

背景

■畏敬の念と小さな自己との間に強固な関連性があることが示されており、これが畏敬の念の経験によって誘発される様々な行動のアウトプットを予測する重要な概念であることが実証されている(Piff et al., 2015)

・実験的に誘発された畏敬の念は、人の小さな自己の感覚を増大させ、その後、より大きな向社会的行動、謙虚さ、および集団的関与につながる

・小さな自己の感覚は、自己からより大きな存在へと注意を移すことで引き起こされると考えられ、小さな自己仮説と呼ばれる

・しかし、この仮説は、自己の「大きさ」を認識すること、すなわち、認識されるべき自己(「Me」)に焦点を当てている(Perlin & Li, 2020)

▶畏敬の念が経験の主体としての自己(「I」)に影響を与えるかどうかを調べる必要

■ラバーハンドイリュージョン(RHI)課題

・「自分の身体こそが経験を受ける」という感覚を意味するボディオーナーシップを操作するために用いられてきた実験パラダイム(Botvinick & Cohen, 1998)

・RHIの心理的メカニズムには,視覚と触覚の統合に基づくボトムアップ的なプロセスと,身体がどのように見えるかという事前知識に基づくトップダウン的なプロセスの両方が関与していることが示唆

■身体所有感

・「自分の身体は自分のものである」という認識を意味する,心理学上の基本的な概念(Tsakiris, 2010)

・身体所有感を操作するために,RHI課題はよく知られた標準的な実験

■畏敬の念を体験すると,超自然的な存在を信じたり,ランダムな出来事に人間の主体性を感じたりする傾向が高まることから,個人が環境事象の原因を外部の主体に帰すようになることが示されている(Valdesolo & Graham, 2014)

・畏敬の感情が生じることが多い神秘的な体験は、統合失調症を特徴づける幻覚と関連 (Cristofori et al., 2016)

・畏敬の経験が人のコントロール感を低下させる

▶これらの知見は、畏敬が個人の自己主体感を低下させることを示唆

 

方法

■参加者:47名の右利きの日本人大学生(男性28名,女性19名,平均年齢=21.28歳,SD=2.04)

■デザイン:2(RHI条件:同期型 vs 非同期型)×3(感情条件:中立 vs 娯楽 vs 畏敬)の被験者内デザイン

■手続き

・VRを用いて360°の動画を3m17sに渡って視聴

・各感情ブロックでは、VRを用いた360°映像(畏敬:エンジェルフォール、アミューズメント:テーマパークのパレード、ニュートラル:企業のプロモーションビデオ)

・RHI課題(同期条件と非同期条件という異なる条件の2つの試行で構成)

・中指の先端がどこにあると感じるか、定規に沿って数字を記入してもらうことで、試験前の自己知覚位置判断を得た

・各情動ブロックにおいて、9つの身体所有声明への同意の程度を7項目のリッカート尺度で評価(ゴムの手を自分の手として知覚する体験に関するものが3つ、自主的にコントロールする体験に関するものが6つ)

・畏敬の念、驚き、昇華性、恐怖、娯楽などの13の感情状態をどの程度経験したか

・自分が小さくなったと感じるかどうかを評価するために、参加者に7つの円を提示し、自分が感じた自己の大きさを最もよく表す選択肢を選んでもらった

・自己境界の曖昧さを感じるかどうかを評価するために、参加者に一連の7つの円を提示し、自分が認識した自己境界を最もよく表す選択肢を選択した

 

結果

■反復測定ANOVA

・感情評価、小さな自己、自己境界の間には、感情条件間で有意な差があることがわかった(Fs (2, 78) > 11.53, η2ps > 0.23, ps < 0.001)

・畏敬条件(Mawe=5.05)では,他の条件(Mamu=2.36,Mneu=1.99)に比べて,有意に畏敬を感じていた(|ts|(39)>13.71,|ds|>2.60,ps<0.001)

・畏敬の条件(Mawe = 3.35)では,他の条件(Mamu = 4.53, Mneu = 4.80)に比べて自分が小さく感じられた(|ts| (39) > 3.44, |ds| > 0.74, ps ≤ .001)

・自己境界については、畏敬の条件(Mawe=3.95)では他の条件よりも自己境界が曖昧だと感じていた(Mamu=4.82、Mneu=5.03)、|ts|(38)>3.84、|ds|>0.62、ps≦0.001

■LMM

・身体所有感:RHI条件(b = 1.23, t = 5.15, p < 0.001)とave_contrast(b = 0.33, t = 2.22, p = 0.028)の有意な主効果が観察されたが,rhiとave_contrastの有意な交互作用(b = -0.27, t = -0.91, p = 0.364)は観察されなかった

▶身体所有感のRHI誘導が成功したことを示しており,他の条件と比較して,畏敬条件の参加者は,RHI実験の条件にかかわらず,ゴム手に対する身体所有感をより強く感じている

■重回帰

・ドリフト:RHI条件の主効果は有意ではなかったが(b = 0.29, t = 1.47, p = 0.143),rhiとaw_contrastの間にわずかに有意な交互効果が見られた(b = -0.94, t = -1.92, p = 0.056)

・RHI条件の主効果は,畏敬条件では有意ではなかったが(b = -0.40, t = -0.94, p = 0.346),他の条件では有意であった(b = 0.54, t = 2.21, p = 0.028)

・ニュートラル条件とアミューズメント条件では,RHIによる自己受容性ドリフトの誘導が成功し,畏敬条件では,同期条件と非同期条件で同程度の自己受容性ドリフトを示すことが明らかになった

・これらの結果は、小さな自己を経験した参加者は、ボディオーナーシップの感覚も強く、自己境界の曖昧な感覚を経験した参加者は、RHI課題中にボディオーナーシップの感覚とプロプリオセプティブドリフトをより強く示すことを示していた

 

コメント

研究室の先輩の研究。何度か研究発表を見させてもらっていたが、改めて(今書いている論文に引用できる要素があったらしたいとも考えて…)。前回のmriの研究から「スキーマの解放」という筋道を崩すことなく、論を立てていて美しい。

 

論文

Takano, R. & Nomura, M. (2021). Awe liberates the feeling that "my body is mine." Cognition and Emotion, Advance online publication.