コーヒー1杯の暖かさ

心理学を研究する大学院生が、研究もそこそこちゃんとやりながら、日本の教育に一石を投じます。

逆境の中で生まれた人間の価値が「感動」を生む(Strick & van Soolingen, Cognition and Emotion, 2017)

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みなさんこんにちは。

じんぺーです、今日も論文を読んでいきます。

 

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逆境の中で生まれた人間の価値が「感動」を生む(Strick & van Soolingen, Cognition and Emotion, 2017)

結論から言うと、文字刺激と絵刺激の3つの実験を行った結果、同じコア・バリュー(愛、意志、美など)でも、好ましい状況で出現した場合よりも、好ましくない状況で出現した場合の方が、より感動的に知覚されるという説得力のある証拠が得られた

 

背景

■2009年に出版された「Oxford Companion to Emotion and the Affective Sciences」では、感動という感情はまだ「よくわかっていない」と指摘されている(Tan, 2009)

■感動の最近の研究

・「狭いよりは広い、落ち込むよりは高まる、粗いよりは細かい、冷たいよりは温かい、開いているよりは閉じている、硬いよりは柔らかい、角張っているよりは丸い、男性的よりは女性的、不快よりは楽しい」という特徴(Menninghaus, Wagner, Hanich, & Wassiliwizky, 2015, Study 3)

・人は激しく感動すると、鳥肌が立ったり、目が潤んだり、喉に力が入ったり、および/または胸が温かくなったりする

・感動することは、典型的には喜びだけでなく悲しみの感情を伴うため、混合感情に分類

・感動するのは、何らかの意味で深い価値観や理想に関連した出来事や行動が原因であることが一般的であると考えられている

・Cova and Deonna (2014) は、より広い価値観に目を向け、感動の典型的な対象は、ポジティブなコア・バリューであると提案:コア・バリューとは、人間であるために特に重要で中心的な「超越的な」価値であり、お金や快楽のような通常の価値とは交換できないもの

▶感動することは、絆や愛着に特異的に関連しているのか、それともより一般的にコア・バリューに関連しているのか、というのが文献上の未解決の問題

 

研究1

■参加者:最終的なサンプルは27名の大学生

■デザイン:2(状況:不利な状況 vs. 有利な状況)×3(価値:愛 vs. 意志の力 vs. 美しさ)の参加者内デザイン

■刺激

・好ましくない条件のために60個のテキスト刺激を作成:20個は「愛」、20個は「意志の強さ」、20個は「美しさ」に関するもの

・刺激は2つの文で構成されています。最初の文は、価値観の出現に不利な状況を説明し、第2文は必ず、その状況が不利であった価値の現れを表す

・Amazon M-Turkの40人のワーカーに、それぞれのテキスト刺激がどの程度「愛」「意志」「美」と関連しているかを、1(全くない)から9(非常にある)までの尺度で回答してもらい、刺激の分類を検証

・第1ブロックでは,テキスト刺激の最初のセンテンスのみが,ランダムな順序で1つずつ提示された:参加者は,それぞれの文章について,その文章がどれだけ心を揺さぶるかを0(全く心を揺さぶらない)から9(とても心を揺さぶる)までの尺度で示し,続いて,この感情がポジティブなものかネガティブなものかを3つの選択肢1(ポジティブ)のうちの1つを押すことで示した

・第2ブロックでは、第1文と第2文の組み合わせが提示された

■結果

・1ブロック

・状況の主効果は、F(1, 1588) = 165.46, p < 0.001, B = 1.11, 95% CI [0.77, 1.44]であり、好ましい状況(M = 3.22, 95% CI [2.63, 3.82])よりも好ましくない状況(M = 4.50, 95% CI [3.90, 5.10])の方がより感動的

・「愛」に関するテキストは、「美」に関するテキスト(M = 3.85, 95% CI [3.25, 4.46])、「意志」に関するテキスト(M = 3.47, 95% CI [2.86, 4.07])よりも、平均してより感動的であると評価された(M = 4.27, 95% CI [3.66, 4.87])、p = 0.001

・状況と価値の間の相互作用を調べたところ、F(2, 1588) = 11.86, p < 0.001:好ましくない状況と好ましい状況で感動するかどうかの差は、「意志」(M = 1.93, 95% CI [1.60, 2.26])で最も大きく、次いで「美」(M = 1.11, 95% CI [0.76, 1.46])、「愛」(M = 0.79, 95% CI [0.45, 1.12])の順

・2ブロック

・好ましい状況(M = 4.02, 95% CI [3.32, 4.73])よりも好ましくない状況(M = 4.92, 95% CI [4.21, 5.62])の方が、より感動的であると評価されたことを示した

・参加者は、「動かされた」という反応の78.8%をポジティブに、9.9%をネガティブに、11.3%を「動かされなかった」と分類

・、状況と価値の間の相互作用効果を調べたところ、F(2, 1588) = 11.80, p < 0.001:好ましくない条件と好ましい条件における感動の違いは、「意志」(M = 1.44, 95% CI [1.16, 1.73])で最も大きく、次いで「美」(M = 0.76, 95% CI [0.45, 1.06])、「愛」(M = 0.47, 95% CI [0.23, 0.72])の順であった

 

研究2

■参加者:大学のキャンパス内で募集した85名の参加者(主に学生)(女性50名)

・2(状況:好ましくない vs. 好ましい)×2(価値:愛 vs. 意志の力)の参加者内デザイン

■手続き

・第1ブロック(状況それ自体)と価数評価が省略されたこと、美の価値に関する刺激が省略されたこと、参加者1人あたりの評価テキスト刺激の数が20個(愛について10個、意志力について10個)に減少したこと、刺激の評価が1回のみであったことを除いて、研究1と同じ

■結果

・状況の主効果、F(1, 1613.00) = 348.35, p < 0.001, B = 2.10, 95% CI [1.84, 2.36]が再現:好ましい状況から得られた価値観(M = 3.64, 95% CI [3.32, 3.95])よりも、好ましくない状況から得られた価値観 (M = 5.37, 95% CI [5.06, 5.69])の方が、より感動的であると評価されたことを示している

・愛についてのテキスト(M = 4.84, 95% CI [4.53, 5.15])は、意志力についてのテキスト(M = 4.17, 95% CI [3.86, 4.48])よりも、平均してより感動的であると評価

・状況と価値の間の相互作用効果を調べたところ、F(1, 1613.00) = 15.14, p < 0.001:好ましくない条件と好ましい条件の間で移動させられることの差は、意志力(M = 2.10, 95% CI [1.84, 2.36])の方が、愛(M = 1.37, 95% CI [1.12, 1.63])よりも大きかった

・状況と性別を固定因子として入力し、「感動した」を従属変数:切片は参加者ごとに異なるように設定:状況の主効果に加えて、性別の主効果があり、F(1, 82.99) = 5.30, p = 0.024となり、平均して女性は男性 (M = 4.10, 95% CI [3.65, 4.56]) よりも刺激がより感動的であると評価した(M = 4.79, 95% CI [4.41, 5.17])

・状況と性別の間には相互作用があり、F(1, 1614.00) = 9.94, p = 0.002:好ましくない状況と好ましい状況の間の移動量の差は、女性(M = 1.99, 95% CI [1.74, 2.23])の方が男性(M = 1.38, 95% CI [1.10, 1.66])よりも大きかった

 

研究3

■参加者:キャンパスで募集した32名の参加者(ほとんどが大学生,25名の女性)

・状況(好ましくない状況と好ましい状況)を参加者内変数とし、感動することを従属変数とする参加者内デザイン

■刺激

・インターネットで自由に入手できる写真の中から、不利な状況下でコア・バリューが表現されているものを8枚

・それぞれの写真には、好ましい状況のバージョンをインターネットから選択するか、写真やキャプションを変更して作成

■手続き

・「感動した」と「心に触れた(touched)」という2つの評価

・各参加者は1ブロックにつき8枚の写真を評価しましたが、そのうち4枚は好ましくない状況、4枚は好ましい状況

■結果

・不利な状況で価値が表現されている写真(M = 5.11, 95% CI [4.77, 5.44])は、有利な状況で価値が表現されている写真(M = 3.60, 95% CI [3.26, 3.93])に比べて、有意に感動したと評価された

 

コメント

なぜこの研究を読めていなかったのかなぞ。ポジネガ文脈と感動の生起具合の貴重な実証研究と思うので(操作も丁寧)、いずれ参考にしたい。

 

論文
Strick, M., & van Soolingen, J. (2017). Cognition and Emotion Against the odds: human values arising in unfavourable circumstances elicit the feeling of being moved. https://doi.org/10.1080/02699931.2017.1395729