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Do You See What I See? 研究室と博物館での美的体験の調査(Specker et al., PACA, 2017)

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みなさんこんにちは!

じんぺーです、今日も論文を読んでいきます。

 

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Do You See What I See? 研究室と博物館での美的体験の調査(Specker et al., PACA, 2017)

結論から言うと、情報を一定の順序(低次情報から高次情報)で提示する効果は、提示の文脈に依存することが示された。

 

背景

■芸術のミラーモデル(Tinio, 2013)

・芸術の創造と美的受容が互いに「ミラー」になっていると仮定

・創作の側から見ると、アーティストはまず、作品の中核となるテーマやアイデアを探ることから始める

・作品の「土台」となるアイデアや関連する一連のアイデアが選ばれると、アーティストはその後、土台に要素や素材を追加したり、状況的な要求を考慮して最初のアイデアを調整したりしながら、作品を拡張していく

・そして、最後に仕上げの作業を行い、作品の制作が完了

・受容する側から見ると、まず作品の表面的な特徴に出会い、最初の注意を引いた後、作品の全体的な構造(例えば、絵画の構成)や描かれている要素の識別に進む

・そして最後に、作品を理解し、その作品の背景にある、あるいは制作の動機となった概念やアイデアを把握しようとする

 

研究1

■研究1では,このモデルが,人々が自然にアートを処理する方法をどの程度表しているかを調べた

・作品を鑑賞したときの体験を自発的に報告

■方法

・20名の参加者(男性13名,女性7名,平均年齢博物館=43.4歳,SD=9.3,平均年齢研究室=20.1歳,SD=1.4)

・専門性のレベルは,10項目からなる「Aesthetic Fluency Scale」(Smith & Smith, 2006;付録参照)を用いて測定

・同じ作品「The Senate by William Gropper」(1950年頃)を鑑賞

・美術館の参加者は作品の実物を見て、実験室の参加者は作品の実物とほぼ同じ大きさの高解像度印刷版を見た

・この作品を見て、普段と同じようにアプローチしてみてください。同時に、作品を見ている間のあなたの経験(考え、感情)を、音声録音装置に向かって話してください。

■結果

・逐語的な報告の平均時間は同程度であった(Mmuseum = 89.7秒,SD = 33.3,Mlaboratory = 103.4秒,SD = 39.1)

第一段階:初期の自動処理を伴うため、この段階に関する報告数は他の段階に比べて少ないと想定

・作品に対する最初の反応として、「好きではない」「興味がない」などの発言をした人が少なかったことから、この仮説を裏付ける結果となった:参加者が自動処理を意識的に反映して報告することが難しいことを反映

・8人(40%)の人は、ステージIのテーマについてまったくコメントしなかった

・そのようなテーマに言及した人は、多くの場合、後の段階の美的判断と組み合わせていた

第2段階(構造的・記憶的処理):人々が明確に語る作品の最初の側面の一つは、作品の内容

・より記憶に基づいた構造的なタイプの処理からスタートする兆候(「理解しようとする動機」)

・理解しようとする意欲があるからこそ、多くの参加者が高いレベルの構造的処理(作品の内容や異なる要素がどのように関連しているかといった中間的な処理に関する発言)を報告した

・すべての参加者が構造的処理と解釈について発言

・参加者1人あたりのこのような遷移の割合を計算し、逐語的な報告の長さのばらつきを調整:人々はステージIIとステージIIIの間でループしていることが確認:ステージIIからステージIIIへの移行は、全移行の平均36%を占め、ステージIIIからステージIIへの移行は平均33%:この2つを合わせると、全体の69%

・実験室の参加者は、作品に対する美的反応の研究でよく見られるように、作品のラベルや壁のテキストがなく、このようなコンテクストがなかった:このサンプルでは、作品を理解・解釈するために、個人的な知識を利用するケースが多く見られた

・例えば、何人かの参加者は、この作品が教室を思い起こさせると述べている

■ステージIII:(より高次の処理:意味づけ)

・美的感情と判断のテーマは、美的な出会いの終わりに頻繁に発生

・3人とも、コンテンツに関連する側面(およびそれに対応する解釈)について話した後、"かなりクールだ"、"非常に目を引く"、"まあ、実際には、とてもいい作品だ...... "などと言って、鑑賞を終えた

・中には、「美的感情」を最初に口にする人もいた

・Mirror Modelには、私たちが「理解しようとする動機」と呼んでいるものが明示的に含まれているのが適切

 

研究2

■研究2では、2(モデルに沿った情報提示とモデルに沿っていない情報提示:以降、それぞれモデルに沿った順序とモデルに沿っていない順序と呼ぶ)×2(美術館と実験室の文脈)のデザインを用いて、モデルの段階に沿った情報提示がアートの知覚プロセスに影響を与えるかどうかを調べた

■方法

・123名(男性42名,女性78名,性別不詳3名,平均年齢博物館=38.9歳,SD=15.7,平均年齢研究室=20.7歳,SD=2.9)

・音声ガイドを通して絵画に関する情報を提示された

・モデルと矛盾しない順序の条件では、情報はモデルが記述している構造に対応するように構成

・作品(The Senate by William Gropper, c. 1950)は一緒

・「Aesthetic Experience Scale」(Silvia & Nusbaum, 2011)を改良したものを用いた:作品を見ているときに「夢中になって没頭する」などの各項目をどの程度経験したかを、1(全く経験しない)から7(非常に経験する)までの7段階で評価

・情報の定着度を評価するために、参加者は音声ガイドで受け取った情報に関して10の質問に答えた:例えば、"作品がキャンバスに油絵であることを覚えていますか?"など

■結果

・二元共分散分析(ANCOVA):最初の分析では,美術の専門知識と年齢をコントロールしながら,モデルの順序(一貫性のあるものとないもの)と文脈(博物館と実験室)が美的経験に及ぼす影響を調べた

・文脈の有意な主効果を示し、F(4, 115)5 = 4.69, p = 0.03, [eta]2 = 0.04:美術館の参加者(M = 3.7)は、実験室の参加者(M = 3.1)よりも美的体験のスコアが高かった

・モデル順序の効果はなく,F(4, 115) = 2.32, p = 0.13, [eta]2 = 0.02

・モデル順序と文脈の間の相互作用はなく,F(4, 115) = 0.17, p = 0.68, [eta]2 = 0.002

・モデルの順序(一貫性のあるものとないもの)と文脈(博物館と実験室)が情報保持に及ぼす影響を調べた

・モデル順序の効果は、F(4, 117) = 1.34, p = 0.25, [eta]2 = 0.01

・文脈の効果は、F(4, 117) = 3.41, p = 0.07, [eta]2 = 0.03

・モデルの順序と文脈の間には有意な相互作用があり,F(4, 117) = 5.98, p < 0.05, [eta]2 = 0.05

・博物館の参加者は,モデル非整合条件(M = 0.75)よりもモデル整合条件(M = 0.77)の方がより多くの情報を記憶していた.実験室の参加者は,モデル非整合条件(M = 0.75)の方が,モデル整合条件(M = 0.66)よりも多くの情報を記憶していた

 

コメント

結果があまりうまく出ていない感じがするけど、この雑誌に載ったということは既存のモデルへの新しい提案(主な改善点は、一目見たときに関連する理解の動機という概念を含めることと、モデルの段階を行き来するプロセスを明示的に組み込むことの2点)が上手くいったのかなあと思います。

 

 

論文

Specker, Eva, Tinio, Pablo & van Elk, Michiel. (2017). Do You See What I See? An Investigation of the Aesthetic Experience in the Laboratory and Museum. Psychology of Aesthetics, Creativity, & the Arts, 11, 265-275. https://doi.org/10.1037/aca0000107